Vol.6 Special Interview

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早稲田大学人間科学学術院教授 可部明克×いとうまい子氏×CLPA事務局長 中村直美氏

予防医学などの可能性を拓くロボット
CC-Link/CC-Link IEの新たな応用に

工場だけでなく社会や家庭など様々な領域への応用展開が期待されているロボット。その進化に、CC-Link/CC-Link IEが提供する高度な制御機能が役立つはずだ。その可能性などについてCC-Link協会(CLPA)事務局長の中村直美氏が、CLPAの技術顧問で医療・福祉ロボットの研究開発に取り組んでいる早稲田大学人間科学学術院教授の可部明克氏と、同氏の研究室に所属する大学院生でロボットを予防医学などに役立てる研究をしているタレントのいとうまい子氏に聞いた。

スクワット支援ツールロボット
『SS RAMちゃん』

中村氏先生の専門である健康福祉産業学について説明して下さい。 可部氏健康福祉産業学における大きな取り組みの一つは、医療・福祉ロボットの開発です。人々の多様な生活シーンにおいて、健康や医療に関連する様々なサポートを提供できるロボットを開発し、超高齢社会で浮上している様々な問題解決への貢献を目指しています。具体的には、加齢にともなう関節や筋肉の機能低下により、介護のリスクが高まる「ロコモティブシンドローム」を予防するロボットなどを開発しています。
単にロボットを開発するのではなく、実際の現場での運用やビジネスモデルまで視野に入れたサービス全体を開発する「社会実装」を前提にした研究を同時に進めているのが、健康福祉産業学の大きな特徴です。

予防医療とロボット技術を融合

中村氏いとうさんが、健康福祉産業学にかかわった経緯は。 いとう氏私は超高齢社会に役立つ勉強をするために早稲田大学人間科学部の「eスクール」に入学しました。eスクールは、3年生になるとゼミに参加します。3年生を目前に、どのゼミにするか考えていたとき、一番人気のあるゼミだと同級生が教えてくれたのが可部先生の研究室でした。
ゼミに参加するにあたって可部先生の面接を受けに行ったところ、私がそれまで学んできた予防医学の知識とロボットの技術を融合させると新しいことができるかもしれないという話になり、可部先生のゼミに加わることになりました。
中村氏ロボットを開発するとなると、機構系やエレクトロニクスなど予防医学以外の知識が必要になると思いますが。 いとう氏そうですね。機構系の制御に必要なマイコンのプログラミングなどロボットの実現には、工学的な専門知識が新たに必要になります。また、それ以上にロボットのコンセプトや活用方法に重きをおいて研究開発に取り組みました。 中村氏最近、医療・福祉ロボットの分野に参入する企業が増えてきました。 可部氏10年前は、ロボット関連の展示会で医療・福祉ロボットを見ることはあまりなかったと思います。ところが、社会の高齢化が進むにつれて介護支援ロボットのニーズが顕在化してきたことで、いまや多くの大学や企業がこぞって医療・福祉ロボットの開発を始めました。
私は、もともと総合電機メーカーで産業用機器向けの制御システムや産業用ネットワークの開発に従事していました。いずれも展開する先は工場が中心でしたが、ロボットの応用が広がるにつれて、制御やネットワークの技術の応用範囲は着実に広がっています。

人間に合わせた制御が必要に

中村氏いとうさんが開発したロボットについて教えていただけますか。 いとう氏最初に開発したのは、「スクワット支援ツールロボット『SS RAMちゃん(squat support tool)』」です。ロコモティブシンドロームの予防には、日常的に足腰を鍛える必要があります。そのために効果的なのがスクワットです。ただし、正しいやり方でスクワットしないと逆に膝などを痛めてしまいます。そこで、正しい姿勢でスクワットができるように支援するのがSS RAMちゃんです。
スクワットの姿勢の重要なポイントは膝の位置です。膝を曲げた時に膝が足のつま先より前に出ないようにしなければなりません。SS RAMちゃんは、一見すると羊の人形ですが、センサーなどが組み込まれており、これと向き合ってスクワットをはじめると、膝の位置がつま先より前に出たときに音声で知らせてくれます。一定のテンポで体を動かすためのサポートをする機能も備えています。このロボットは、2013年に開催された「国際ロボット展」に出展しました。
中村氏最近の研究テーマは。 いとう氏いまは75歳以上の方々が、ロコモティブシンドロームの予防に積極的に取り組めるようなシステムの開発に取り組んでいます。SS RAMちゃんは、予防に取り組む方々が、正しい姿勢でスクワットができるようにするために開発しました。ところが、実際には、ロコモティブシンドロームの予防を積極的に取り組もうとする人は必ずしも多くはありません。
特に高齢者の方は、新しいことをはじめたり、体を動かしたりすることに、おっくうになりがちです。できるだけ多くの人に体を動かしてもらうためのサポートが必要だと思っています。高齢者の方の身近に何らかの装置を置いて、モティベーションを高めることができる仕組みが実現できないか検討を進めているところです。
中村氏人をサポートするアプリケーションの制御は、機械の制御よりも複雑になるのではないでしょうか。状況を把握するために必要な情報の種類や量も格段に増えると思います。 可部氏そのとおりです。FA(Factory Automation)では、主な制御対象は機械です。機械の動きは急に変化することがないので、再現性のある制御を実現しやすい。ところが、人間はつねに変化しています。このため、これに応じて変化する柔軟な制御システムが必要になるわけです。特に生体に関する情報の判断に必要なプロセスは複雑です。ここではAI(Artificial Intelligence、人工知能)の技術が必要になると思います。つまり、情報システムと制御システムが密接に連携する仕組みが必要になるでしょう。

情報システムと高い親和性

中村氏CC-Link/CC-Link IEは、産業用装置内部に組み込む制御システムとして多くの採用実績がありますし、Ethernetの技術をベースにした規格なので情報システムとの親和性が高いのが特徴です。しかも、1Gbpsと高速でデータを転送することが可能です。医療・福祉ロボットの進化に貢献できるのではないでしょうか。
例えば、ロボットを家庭に設置する時代になると、遠隔からの保守やメンテナンスをする仕組みが必要になるはずです。すでにCC-Link IEを使って機械の動作状態を常時モニタリングし、故障の発生を未然に防ぐ「予防保全」を行っている例もあります。こうした技術も、医療・福祉の分野で役立つかもしれません。
可部氏実は、研究室で開発した医療・介護ロボットの一つを病院に設置して、効果を検証しているところです。このロボットはCC-Linkを使って統合制御しているのですが、CC-Linkおよびコントローラが提供する自動故障診断機能が、大変役立ちました。ロボットの具合が悪くなったときに、素早く問題点を割り出し、迅速に対策を施すことができました。
CC-Link/CC-Link IEを利用して家庭内にセンサ・ネットワークを構築すれば、さまざまな情報を効率良く収集できます。この技術は、いとうさんが抱えている課題の解決にも役に立つのではないでしょうか。
いとう氏確かにそうですね。高齢者が体を動かすためのモティベーションを高める仕組みを実現するには、まず生活パターンを把握することが必要だと思っています。これが分かれば、どこに機械を設置して、どのように高齢者に働きかければよいかが割り出せるかもしれません。 可部氏日本ではFAというと工場に向けた技術だと考えている人は少なくありません。海外では工場以外にも展開する技術だと広く認識されています。実際にFAを得意とする企業が、病院向けの装置を開発している例もあります。CC-Link/CC-Link IEの技術は、工場という分野以外にも、幅広い応用の可能性がありそうです。

可部 明克(かべ あきよし)氏早稲田大学
人間科学学術院教授

早稲田大学人間科学学術院教授。東京大学工学部卒。総合電機メーカーにて産業用装置を扱う事業部の開発部門でFA機器や産業用ネットワークの開発に携わった後、2003年から現職。医療や福祉分野で使う「ヒューマンサービス・ロボット」の研究に従事する。2012年からCC-Link協会技術顧問も務める。

いとう まい子氏1964年愛知県名古屋市出身。
女優。

1982年ミスマガジンコンテストの初代グランプリを受賞、1983年に『微熱かナ』で歌手デビュー。以後テレビ、映画、舞台で幅広く現在も活躍中。NPO法人『オーダーメイド医療を考える会』の理事を務める。2014年早稲田大学を卒業し同年4月より早稲田大学大学院へ進学。大学院 人間科学研究科でロボット工学を学び、現在はロコモティブシンドロームを予防するロボットを開発中。

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