Vol.4 Special Interview

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CC-Link協会の新会長に聞く

ネットワークが革新のカギに
「日本発」の技術で世界に貢献

CC-Link協会(CLPA)の会長に、法政大学理工学部教授の木村文彦氏が新たに就任した。生産システム工学とCAD/CAMの分野における日本の第一人者として国内外で高い評価を受ける功績を数多く残している木村教授に、CLPA新会長としての抱負や、CC-Link/CCLink IEをはじめとする産業用オープンネットワークが製造業の発展に貢献する可能性などについて聞いた。

─会長を引き受けた理由を教えてください。 木村氏ネットワークの技術が、これから製造業に革新をもたらす重要な役割を担うことは明らかです。こうした重要な技術の普及推進に取り組むCLPAの活動に大きな可能性を感じ、その活動に貢献したいと思いました。 ─ネットワークの技術がもたらす革新とは。 木村氏「IoT(Internet of Things)」、いわゆる「モノのインターネット」です。IoTがもたらすインパクトは、インターネットが普及したときよりも、ずっと大きいと思っています。人間の数よりもはるかに数が多いモノがつながるIoTでは、人間と人間をつないでいる現在のインターネットよりも、ネットワークの規模が格段に大きくなり、扱う情報量も膨大になるからです。
まずIoTの普及によって、個々のモノの使い方が変わります。さらに、様々なモノから収集した情報が集まるようになるとモノが変わるでしょう。これに応じて、ものづくりも変わる可能性があります。CC-Link/CC-Link IEをはじめとする産業用オープンネットワークは、こうしたIoTのプラットフォームの一部を担うことになるでしょう。
インターネットが広がったときと同じように、IoTもあるレベルを超えると堰を切ったように一気に普及が加速するのではないでしょうか。いまは、まさにその堰を超えつつあると感じています。

製造業が直面する課題を解決

─ネットワークの技術は、製造業をどのように変えるのでしょうか。 木村氏いち早く先進国では顕在化していますが、いまや「何を作るか」という根本的な問題に、製造業にかかわる多くの企業が直面しています。従来のように、明確な市場のニーズが簡単に把握できなくなったからです。
潜在化しているニーズを市場から抽出して、速やかに製品化する仕組みを構築しなければ、なかなか新しい市場を開拓することはできません。この問題を従来の考え方の延長で解決することは難しいでしょう。ここで何らかの革新が必要です。その革新をもたらすのが、IoTであり、ネットワークの技術です。
─具体的には。 木村氏例えば、消費者の行動などデータを大量に吸い上げ、これを解析することで、新しい市場のニーズをあぶり出せます。それに基づいて開発した製品を市場に投入し、その反応やユーザーの使い方などに関するデータを収集。このデータを次の製品開発や生産にフィードバックすることで、一段と製品を発展させることができます。こうして、製品のライフサイクル全体を可視化しながら、ものづくりを展開することで、「何を作るか」という問題を解決できるでしょう。この仕組みを実現するためには、広い意味でのネットワークが不可欠です。
日本は、擦り合わせによる高品質なものづくりを得意としていました。こうした人に依存する要素が多い製造プロセスから、客観的なデータを収集するのは難しいでしょう。付加価値の高い工芸品では、人に依存する「技」が重要ですが、工業製品の製造プロセスでは、「汎用化」を進めるべきです。それによって製品ライフサイクル全体からデータを収集できる仕組みを構築し、データを製品化のプロセスにフィードバックしながら製品を進化させるサイクルを作るべきでしょう。この仕組みを支える技術の一つが産業用オープンネットワークを含むFA(Factory Automation)だと思います。

「日本発」の技術で競争力強化

─実際にFA(やICT(情報通信技術)を活用して製造業を強化する動きが欧米で始まっています。 木村氏人件費が高い先進国の製造業が、グローバル市場で競争力を保つことは難しくなっています。それでも産業を育む基盤として国内に製造業を維持することは重要だと思います。「製造業ルネッサンス」と呼ばれている米国内の様々な施策やドイツの国家戦略「Industrie 4.0」など製造業の強化に向けた大きな取り組みが欧米で相次いで始まった背景には、こうした考え方があるのではないでしょうか。
日本でも国内で製造業を維持するための取り組みは必要です。このために「日本発」の技術であるCC-Link/CC-Link IEが担う役割は大きいと思っています。これから新しいものづくりのプラットフォームを構築するうえで、様々な新しい技術が必要になります。ところが、CAD/CAMなどの市場では、海外製が多く占めているのが現状です。
日本の製造業ならではの強みを打ち出すには、新しいプラットフォームを支える技術を日本でも積極的に開発すべきでしょう。こうした考えから、「日本発」のCC-Link/CC-Link IEを、日本のものづくりの新時代を支える技術の一つにしたいと思っています。

産業用ネットワークの可能性が拡大

─CAD/CAMや生産システム工学の分野で多くの功績を残していらっしゃいます。産業用オープンネットワークとのかかわりは。 木村氏生産システムの評価や解析を進めるうえで欠かせない作業がデータ収集です。生産現場から必要なデータを効率良く収集するための手段として、産業用オープンネットワークの技術には注目していました。
例えば近年、研究している大きなテーマの一つに、「環境に配慮したものづくり」があります。環境に配慮したものづくりを実現するには、ものづくりのプロセスが環境に与える影響を評価する必要があります。ところが最近まで、その手法が確立されていませんでした。評価方法の体系を作るには、まずデータを集めなければなりません。生産プロセスやその周辺の環境から、様々なデータを効率良く集めるために、データ収集システムのネットワーク化と自動化は不可欠です。実は、実際にCC-Link/CC-Link IEを使って生産現場から収集したデータを企業から提供していただき評価手法の実証に役立てています。
─CLPAの今後の方向について一言いただけますか。 木村氏産業用オープンネットワークの技術は、工場の中だけにとどめておくべきではありません。外部の様々なシステムと接続し、データを広く流通させることで、幅広い分野に様々な革新がもたらすからです。これを前提に、新しい時代のものづくりの実現に向けた具体的なシナリオを描きながら、産業用オープンネットワークの有力な規格の一つであるCC-Link/CC-Link IEのプロモーションを進めるつもりです。今後のCLPAの活動に是非、注目していてください。

木村 文彦氏法政大学理工学部機械工学科
教授
東京大学名誉教授
工学博士
日本学術会議 会員

Profile

1974年に東京大学大学院博士課程を修了後、通商産業省工業技術院電子技術総合研究所に入所。1979年から東京大学で、「インバース・マニュファクチャリング」「ライフサイクル工学」「形状モデリング」などのテーマを研究。近年は、環境に配慮した製品設計(エコデザイン)や地球持続可能性を指向する製品ライフサイクルデザイン、変動に柔軟に対応できる生産システムの構築法なども研究。2009年に法政大学へ移籍。生産システム工学、設計工学、ライフサイクル工学の分野を中心に研究。

受賞

日本機械学会論文賞(1980年)、情報処理学会20周年記念論文賞(1980年)、精密工学会論文賞(1986年、1988年)、精密工学会賞(1993年、2011年)、IFIP Silver Core Award(1994年)、日本機械学会ファクトリーオートメーション(FA)部門功績賞(1997年)、通商産業大臣表彰(2000年)、日本機械学会設計工学・システム部門業績賞(2003年)、IMS成果賞(2005年)、日本機械学会標準事業貢献賞(2008年)、藍綬褒賞(2011年)、日本機械学会設計工学・システム部門功績賞(2012年)

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