Vol.2 FAの新境地を拓くCC-Link/CC-Link IE

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Special Interview

CC-Link協会 技術顧問に聞く

マクロな視点でグローバルな活動の舵取りを支援
“非FA分野”への応用展開をリード

CC-Link協会(CLPA)は、先進的な医療・福祉ロボットの研究開発に取り組む早稲田大学人間科学学術院 教授の可部明克氏を2012年から技術顧問に迎えた。そこで同氏に、技術顧問の役割やCLPAが向かう新しい方向などについて聞いた。企業でFA(Factory Automation)機器の開発に従事していた経験もある同氏は、広い視野と技術に関する卓越した見識を生かしてCLPAの舵取りを支援。FA以外へのCC-Link/CC-Link IEの展開に世界的な視点で取り組む考えだ。

─プロフィールを教えていただけますか。 可部氏大学の機械工学科でロボット工学を学んだ後、総合電機メーカーに就職。産業用装置を扱う事業部の開発部門でFA機器や産業用ネットワークの開発に従事していました。
早稲田大学人間科学学術院人間科学部が、2003年4月に学科を再編し、健康福祉科学科を開設したときに、縁があって大学教員に転身しました。
─研究テーマを説明して下さい。 可部氏大きな研究テーマの一つが医療・福祉分野で使う「ヒューマンサービス・ロボット」の開発です。病院・街・交通機関・家など人々の生活シーンにおいて、健康や医療に関連する様々なサポートを提供するシステムを実現し、社会の超高齢化とともに浮上する様々な問題の解決に貢献することを目指しています。
単に特定の機能を提供するロボットのハードウエアやソフトウエアを開発するのではなく、実際の現場での運用やビジネスモデルまで視野に入れたサービス全体を開発する「社会実装」を前提にした研究を進めています。

サービス・ロボットに活用
図1 睡眠時無呼吸症候群サポートロボット「じゅくすい君」
─研究成果を紹介していただけますか。 可部氏最近の代表的な成果に、睡眠時無呼吸症候群の方を支援するロボット「じゅくすい君」や、骨、関節、筋肉などの働きが衰え、くらしの中の自立度が低下し介護が必要になるリスクの高い状態である「ロコモティブ・シンドローム」にならないよう、出来る限り防止する「ロコトレ支援ロボット Toccoちゃん」があります(図1、図2)。
無呼吸あるいは低呼吸が睡眠中にたびたび発生する睡眠時無呼吸症候群は、身体に大きな負担を与えるだけでなく、高血圧、糖尿病、心筋梗塞などの合併症を招く恐れがあります。現状では治療のために、呼吸用のマスクなどの装置を患者が身につけなければならず、それが患者の大きな負担になっています。こうした問題を少しでもやわらげるために開発しているのが、じゅくすい君です。

じゅくすい君は、いびきを検出するマイクやロボットアームを内蔵したクマのぬいぐるみ型のロボットです。ロボットをまくらにして寝ると、無呼吸または低呼吸を検出したときに、ロボットアームを動かして患者の頭部を軽くたたいたり、顔を横から触って横向きになるよう動作します。こうして刺激することで横向きの姿勢を促して呼吸状態の改善を支援します。
じゅくすい君は、患者の指先に取り付けたパルスオキシメータ「ミニじゅくすい君」で検出した血中酸素濃度や、マイクで検出した患者のいびき音から、無呼吸や低呼吸を検出できるようになっています。睡眠中に邪魔にならないように、ミニじゅくすい君とじゅくすい君はコードレスで通信できるようにしました。この試作機を、2011年の国際ロボット展に出展したところ、大きな反響があり、国内外の新聞やテレビで何度か紹介されました。

図2 「ロコトレ支援ロボットToccoちゃん」
─「Toccoちゃん」についても教えて下さい。 可部氏Toccoちゃんは、パンダ型のロボットで、試作の初号機はユーザーを笑わせて健康増進を図ることを目的に開発しました。このために手足を動かすアクチェータのほか音声認識や顔認識の機能を組み込みました。顔認識機能には笑顔を検出するアルゴリズムが組み込まれており、ユーザーが笑顔になるまで、Toccoちゃんが様々な仕草を見せながら話しかけます。その後、応用分野を拡大して機構も改良し、ロコモティブ・シンドロームを防止するためのトレーニングを支援する二号機を開発中です。具体的には、トレーニングをする人に声をかけると同時に、コミカルな動作を見せて楽しませることで、トレーニングに対する意欲を盛り上げます。実は、アクチュエータの制御には、市販のPLC(programmable logic controller)とCC-Linkが使われています。
研究室では、じゅくすい君やToccoちゃんなどのようなヒューマンサービス・ロボットの試作だけでなく、こうしたロボットを社会に実装するためのビジネスモデルの研究にも取り組んでいます。
CC-Link/CC-Link IEの可能性を拡大

─技術顧問の役割を教えて下さい。 可部氏CLPAが開催する各種委員会やCLPA傘下にある様々なワーキング・グループの活動に、アドバイザーとして参画します。大きな役割の一つは、CC-Link/CC-Link IEにまつわる技術開発や市場展開の方向に関してアドバイスをすることです。様々な業界にネットワークを広げている大学に身を置く者ならではの幅広い視野に基づく意見や見解が期待されているものと考えています。CC-Link/CC-Link IEの今後の展開を決めるうえで重要な、先端技術や応用の最新動向に関する情報も積極的に提供する考えです。
特に、CC-Link/CC-Link IEの技術やCLPAの活動を、ユーザーや会員企業のグローバルな競争力が高まる方向に進めるためのアドバイスは重要だと思っています。産業用ネットワークの規格は、ある時期に林立した経緯があります。最近では、かなり淘汰されたとはいえ、今も複数の規格が存在します。こうした中で、CC-Link/CC-Link IEの存在感を高め、グローバルな規模でシェアを伸ばすには、ユーザーのニーズを先取りした活動や技術開発が欠かせません。こうした考えを前提に、様々なアドバイスを提供したいと思っています。
─技術顧問として目指していることは。 可部氏大きな目標は、グローバルな市場におけるCC-Link/CC-Link IEの地位向上です。このために、FAの分野以外も含めてグローバルな規模で進んでいる新しいトレンドに目を配ることが重要だと考えています。特に重要だと思っているのがICT(情報通信技術)とFAの融合です。
例えば膨大なデータから有意義な情報を抽出して新たな応用システムを構築するいわゆる「ビッグデータ」が、ICT業界を中心に新たなビジネスを生み出すキーとして期待されています。ところが現状のFA業界ではICT業界ほどビッグデータを巡る動きは盛り上がっていないように見えます。私は、FA業界の方々もビッグデータのインパクトを理解するとともに、ビッグデータがFAと大きな関わりを持つ可能性があることをもっと強く認識すべきだと思っています。
ビッグデータを収集するための情報ネットワークとともに、装置や社会の現場のセンサーから実際にデータを収集する産業用ネットワークが不可欠であり、データを解析して判断するノウハウを持つFAや社会の現場の方の参加があってこそ、応用が広がる可能性があるからです。
例えば、ここにきて人々の暮らしに、“話す”家電やサービス・ロボットなどを導入する動きが加速しています。人々の様々な生活シーンにロボットが登場するようになると、それぞれがネットワークにつながるようになるでしょう。このネットワークのアーキテクチャは、情報ネットワ―クと産業用ネットワークが融合しながら進化すると予想しています。
─つまり、FA以外の分野にCC-Link/CC-Link IEの技術が普及する可能性が高まっているということですね。 可部氏その通りです。実は、遊園地の遊具や博物館などのアトラクション用の大型ロボットなどにも、すでにCC-Link/CC-Link IEの技術が使われています。FA以外の分野でCC-Link/CC-Link IEが使われるケースは、これからますます増えるのではないでしょうか。
先ほど紹介したロコトレ支援ロボットToccoちゃんや睡眠時無呼吸症候群サポートロボット「じゅくすい君」のようなヒューマンサービス・ロボットが、数多く家庭で使われるようになれば、それらをネットワークで連携させるアプリケーションが登場するかもしれません。このようなCC-Link/CC-Link IEに関連する新しいニーズは、FA業界の外にいる私たちの方が、いち早く察知できるのではないでしょうか。CLPAの技術顧問として、新しいニーズの開拓にも積極的に取り組み、みなさまと共に世界No.1を目指します。

可部 明克氏早稲田大学人間科学学術院
人間科学部 健康福祉科学科
ロボットメディアラボ
早稲田大学理工学術院総合研究所 教授

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